打撃練習中に客席に飛んだボールが顔に当たり失明したとして、観客の女性が球場を管理するプロ野球、北海道日本ハムに約6500万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、千葉地裁は28日、請求を棄却した。
白石史子裁判長は判決理由で、「(球団側には)打球が観客席に飛ぶ危険性を知らせて注意する義務はあるが、観客にも防御態勢をとるなどして危険を回避することが求められる」と指摘。
場内放送で注意を呼び掛け、ボールが飛んだときに笛を吹いて注意喚起する係も配置するなど「警備上の注意義務を果たしており、過失があるとはいえない」とした。
判決によると、女性は平成19年3月、千葉県鎌ケ谷市の「ファイターズスタジアム」のライト側外野席でオープン戦前の練習を見学中、打球が当たり右目を失明した。
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http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/111028/trl11102817370013-n1.htm(MSN産経ニュース)
原告の女性にとっては厳しい判決ですね。
社団法人日本野球機構の「試合観戦契約約款」第13条(責任の不存在)は、消費者契約法第8条に考慮し、2010年に(責任の制限)と改正され以下のように規定しています。
第13条(責任の制限)
主催者及び球場管理者は、観客が被った以下の損害についての責任は負わないものとする。但し、主催者若しくは主催者の職員等又は球場管理者の責めに帰すべき理由による場合はこの限りではない。
- (1) ホームラン・ボール、ファール・ボール、その他試合、ファンサービス行為又は練習行為に起因する損害
- (2) 暴動、騒乱等の他の観客の行為に起因する損害
- (3) 球場施設に起因する損害
- (4) 本約款その他主催者の定める規則又は主催者の職員等の指示に反した観客の行為に起因する損害
- (5) 第6条の入場拒否又は第10条の退場措置に起因する損害
- (6) 前各号に定めるほか、試合観戦に際して、球場及びその管理区域内で発生した損害
2 前項但書の場合において、主催者又は球場管理者が負担する損害賠償の範囲は、治療費等の直接損害に限定されるものとし、逸失利益その他の間接損害及び特別損害は含まれないものとする。但し、主催者若しくは主催者の職員等又は球場管理者の故意行為又は重過失行為に起因する損害についてはこの限りではない。
3 観客は、練習中のボール、ホームラン・ボール、ファール・ボール、ファンサービスのために投げ入れられたボール等の行方を常に注視し、自らが損害を被ることのないよう十分注意を払わなければならない。
協議経緯
当機構は、改正後の試合観戦契約約款に関しては、消費者契約法第8条には該当しないものと判断しました。
但し、2項で損害賠償の範囲を治療費等の直接損害に限定していることについては、発生した損害の程度との関係では、問題が無いとは言えないと日本野球機構に対して指摘しました。この指摘に対して、日本野球機構は、現在発生している事故の多くが打撲程度であること、実際に重大な事故が発生した場合はケースバイケースで直接損害を超えての賠償も検討しているとの口頭説明がありました。
協議終了と意見
今回提示された改正後の約款は、全く責任を負わないとした旧約款よりは改善され、消費者契約法第8条に該当する問題はなくなったと考えます。
しかし、人身損害に対する損害賠償の範囲を治療費等の直接損害に限定していることは、発生する損害の程度との関係では、問題となります。
消費者機構日本としては、どの程度ならよい、などという基準は示せませんが、発生した損害との関係で、責任を治療費等に限定する約款が消費者契約法第10条に該当して無効となる可能性があると考えます。
実際、日本野球機構は、個別に対応しているとのことです。
今回の申入れに伴う協議については、一応の改善が見られたので、終了しましたが、日本野球機構に対しては、人身損害が生じた場合の扱いについて、さらに検討されることを要望しました。
http://www.coj.gr.jp/zesei/topic_101109_01.html(消費者機構日本)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H12/H12HO061.html(消費者契約法)
この改正がなされた時点では、打撲程度の事故しかなかったわけですね。3では、「自らが損害を被らないように十分注意を払わなければならない。」とだけあり、十分注意していても避け切れなかった場合の規定、また、失明という治療不可能な重傷や死亡については規定されていない。と言っていいでしょう。