家賃を滞納した人にあの手この手で嫌がらせをして、出ていくことを迫る「追い出し屋」――「勝手にカギを変えられた」「留守中に家財がなくなっていた」など、その強引な手法は、これまでにも数多く報道されている。
住居は、その人の生活の基盤だ。借主が家賃を滞納した結果、最終的には出ていかざるをえないとしても、家主の側が「追い出し」のためにどんな手段を使ってもいいわけではないだろう。なにごとにも限度というものがあるはずだ。
もし「追い出し屋」に、理不尽といえるような嫌がらせを受けたら、どうすればいいのだろう。家賃を滞納した落ち度がある以上、あきらめるしかないのだろうか。田沢剛弁護士に聞いた。
●大家や不動産屋の「追い出し行為」は不法行為にあたる
「緊急性が高い『特別の事情』がない限り、大家や不動産屋が、アパートの家賃を滞納したことを理由にして、部屋から荷物を勝手に撤去したり、鍵を交換したりすれば、借主に対する不法行為(民法709条)にあたり、違法ということになります」
田沢弁護士はこのように説明する。借主は、このような「追い出し行為」によって生じた損害について、賠償を請求できるのだという。なぜ、そういう結論になるのか。どうやら「自力救済の禁止」という考え方がカギとなるようだ。
「家賃を滞納している借主に対し、大家が賃貸借契約を解除して部屋の明渡しを求めたのに、借主がこれに応じない場合があるとします。
このようなとき、通常の手続きとして、大家は裁判所に明渡しを命ずる判決を求めます。そして、その判決にもとづいて、裁判所に明渡しの強制執行をしてもらうことになります。
他方、裁判所の力を借りずに、私的な力で権利を実現することは『自力救済』と呼ばれ、原則として、違法な行為だとされているのです」
●「自力救済」は原則として禁じられている
田沢弁護士は、自力救済について判断した最高裁判所の判例を引き合いに出す。
「最高裁判所は、昭和40年12月7日の判決で次のように述べています。
『私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能または著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるものと解することを妨げない』
このように判示して、法的手続によらない『自力救済』が原則として禁止されることを明らかにしているのです」
つまり、部屋から荷物を勝手に撤去したり、鍵を交換するといった行為は「自力救済」であり、そのような行為は原則として禁止されているので、追い出し行為は「不法行為」となるということなのだ。
「追い出し行為については、最近でも根絶されていないようで、これを違法とする下級審判決が相次いでいるようです」
もしも「追い出し屋」に嫌がらせを受けたときは、「自力救済は禁止されている」ということを思い出して、冷静に対処したい。
http://www.bengo4.com/topics/1445/
補足として言えば、「家賃を滞納しても平気だ」ということはありませんよ。みなさんご存知の通り、入居する際に賃貸借契約書というものに署名捺印しています。この「賃貸借契約書」には家賃滞納したら退去いだだくことなどが明記されていますからこの契約の規定は「任意規定」(民法第91条)です。すなわち、契約自由の原則は内容自由の原則であり、民法の規定よりも契約した当事者の意思が優先されるのであって賃貸借契約書の取決めに則るというのが正解です。
以前にお話した「校則」も任意規定です。16歳以上なら普通自動二輪の免許は取得できますし、乗ることは可能です。しかしながら私立高校の一部ではバイクに乗ることはもちろん、免許取得も校則により禁じている学校があります。「なんでだよ、道路交通法では認められているのに」その通りですが、その法よりも当事者の合意が優先されるわけです。バイクに乗りたければそういう校則の学校を選び、こういう高校に行けばいいだけです。公立高校とか。つまり、バイク禁止の高校でバイクに乗ってることがばれて停学。これは「校則」という任意規定に違反するというわけです。他にも「社則」などがありますね。家賃滞納してもいいなんて賃貸借の規定に書かれている契約書はありませんけどね。
当事者の合意が優先、法律を排除できる
民法第91条「法律行為の当事者か法令中の公の秩序に関せさる規定に異なりたる意思を表示したるときは其意思に従ふ」
敷金や礼金の取決めは民法第92条が根拠となっている。