複数の保険会社の商品を販売する乗り合い代理店(保険ショップ)の競争が激しくなっている。市場の急成長で大手生保も本格的に参入。一方、「手数料の高い商品ばかり売っている」との疑念も根強く、顧客の判断に必要な情報提供などを義務づけた改正保険業法が月内に施行される。代理店側は経営環境の変化に直面している。
■「比べて選ぶ」、高まるニーズ
家具・インテリア大手ニトリの南砂店(東京都江東区)では、ソファ売り場の一角にテーブルと椅子が用意され、保険のパンフレットが並ぶ。日本生命保険の子会社ライフサロンとニトリの子会社が、昨年10月に開いた乗り合い代理店だ。
主に30〜40代の夫婦らが足をとめ、月25件ほど契約が成立するという。代理店の西野宮由香店長は「開業半年としては上々」と話す。
日生は昨年5月に独立系のライフサロンを買収し、代理店事業に本格的に参入した。顧客のニーズが多様化し、自社だけでなく複数の保険会社の商品を比べたいという人が増えたためだ。企業の安全管理が厳しくなり、日生の営業職員が職場に入りにくくなっていることも背中を押した。
さらに日生はこの夏、NTTドコモとの連携にも乗り出す。ドコモの販売店が代理店となり、日生だけでなく住友生命や第一生命の子会社、損害保険会社系など8社の商品も売る。
日生に先駆けて住友は2006年に代理店事業に参入し、すでに71店を展開中。住友や第一は、それぞれ代理店向けに特化した商品をつくる子会社も設けている。いわば生保最大手の日生が先行する住友や第一を追いかける構図だ。ある生保幹部は「日生がノウハウを蓄積すれば、代理店事業の競争はさらに激しくなる」と警戒する。
■恣意的な販売防ぐ
保険の乗り合い代理店は近年、急成長を続けている。生命保険文化センターの15年度の調査によると、乗り合い代理店での保険加入者の割合は全体の13・7%を占めた。矢野経済研究所の予測では、代理店での新規契約件数は16年度に192万件に達する見込みで、10年度の44万件から4倍超に増えるという。
だが、代理店は保険会社から販売手数料を受け取って保険を売っているため、構造的に「手数料が高い商品ばかり売っているのでは」との見方も消えない。
そのため、29日に施行される改正保険業法は、代理店に対し、顧客の意向をしっかり把握することや、判断に必要な情報を提供することを義務付けるといった規制を強化する。
最大手の「ほけんの窓口」は1月から新たなシステムを導入して新規制に対応。「保険料を抑える」「働けなくなった時に備える」といった顧客の意向を入力すると、複数の保険商品が自動的に選ばれる。販売員の「恣意(しい)的な販売」を防ぐ狙いだ。「保険見直し本舗」も、販売員が客から聞き取る項目や、書類に残す事柄を明確にする内部規定を設けた。担当者は「法改正で各社の負担は増える。対応できない代理店はお客さんから選別されるだろう」とみている。
(土居新平)
http://www.asahi.com/articles/DA3S12372839.html
改正保険業法とは
改正保険業法(保険業法等の一部を改正する法律)とは、保険商品の複雑化や販売形態の多様化、乗合代理店の出現などにより、保険会社の経営環境が大きく変化したことを受けて、新たな環境に対応するための募集規制の再構築等を目的として改正された金融規制法である。
改正保険業法で変わること
改正保険業法では、保険募集の定義が明確化され、募集関連行為という概念が導入される。
また、顧客ニーズを把握する「意向把握義務」や「情報提供義務」を導入するなど、募集プロセスの各段階にきめ細かく対応する基本的なルールが創設される。
保険募集人に対して、規模・特性に応じた直接的な体制整備を義務づける。
保険市場を活性化するために、海外展開の際の子会社規制の緩和、保険仲立人に関する規制の緩和や、共同保険における契約移転手続に係る特例の導入、運用報告書の電磁的交付方法の多様化なども実施される。
https://thefinance.jp/law/150713足立 格 弁護士