諫早湾干拓訴訟の6日の福岡高裁判決要旨は次の通り。
【漁業被害と干拓事業の関係】
諫早湾では潮受け堤防の閉め切りによって、1550ヘクタールもの干潟が消失し、潮の満ち引きや潮流速が減少するなどしており、生物の生息環境に影響を及ぼす貧酸素水塊の発生が促進されている可能性が高い。赤潮の発生が促進されている可能性もあり、諫早湾やその周辺では魚類資源減少に関与する要因が複数生じた可能性が高い。
国は漁獲量の減少は全国的な傾向で、潮受け堤防の閉め切りが要因ではないと主張する。しかし、堤防が閉め切られた1997年と2005年の漁獲量を比較すると、全国で約24%減少しているのに対し、諫早湾では約51%減少するなど、全国的な傾向よりも、はるかに急激に漁獲量が減少しているというべきだ。
堤防閉め切りと漁業被害との因果関係を肯定するのが相当だ。
【堤防閉め切りの違法性】
原告らは、潮受け堤防の閉め切りにより、漁業行使権を侵害されているといえる。しかし、潮受け堤防を撤去すると、高潮時や洪水時の防災機能がすべて失われるため、漁業行使権の侵害の重大性を考慮してもなお、撤去請求は認められない。
一方、生活基盤にかかわる漁業行使権が高度の侵害を受けているのに対し、堤防の防災機能は限定的なものであり、干拓地における営農にとって堤防閉め切りが必要不可欠ともいえない。
排水門を常時開放しても、防災上やむを得ない場合に閉じることで防災機能を相当程度確保することができ、常時開放によって過大な費用を要することもない。
国は、有明海の環境変化の解明、再生への取り組みを一定程度しているが、主に調査研究であり、漁業被害を防止する効果は不明だ。
潮受け堤防の閉め切りによる漁業行使権の侵害には、防災上やむを得ない場合を除いて排水門の常時開放を認める程度の違法性がある。
【期限】
潮受け堤防が果たす洪水時の防災機能や、排水不良の改善機能などを代替するための工事のため、判決確定の日から3年間は各排水門の開放を猶予するのが相当だ。
また、現時点では、干拓事業が諫早湾など有明海の環境に及ぼす影響がすべて解明されたとはいえず、将来的に漁業行使権の妨害を回避する措置として、排水門の常時開放よりも適切なものが発見される可能性があるため、請求は一定の期限付きで認めるのが相当だ。
排水門の開放後、干潟生態系が淡水域から海域の生態系に移行するのに最低2年を要するほか、気象の変動を考慮すれば複数年の調査が必要で、開門は5年間に限って継続することを認める。
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