放送法64条では、テレビなどの放送受信設備の設置者は「NHKと受信契約をしなければならない」と規定。今回の訴訟では、この条文の解釈と憲法適合性が争点となっている。
先に弁論した男性側は、64条について「努力義務を課した訓示規定に過ぎない」と主張。契約を強制していると解釈すると「NHKに課税徴収権を認めるに等しく、非民主的だ」と述べた。
これに対してNHK側は「時の政権におもねらず不偏不党を貫き、視聴率にとらわれない多角的視点を踏まえた番組を放送するために、安定財源を確保する手段として制度は不可欠だ」と反論。必要性と合理性があり、合憲との見解を示した。
今回の訴訟では、受信契約がいつ成立するかも焦点となっている。NHK側は「契約申込書が設置者に到達した時点で成立する」と主張してきたが、1、2審はこれを否定。設置者が支払いを拒否した場合は、「契約の承諾」を命じる判決が確定した時点で成立すると判断している。
一方で、NHKが主張する契約の「自動成立」を認めた他の判決もあり、下級審の判断は分かれている。大法廷は、この点についても統一判断を示すとみられる。
今回の訴訟では、NHKが東京都内の男性を相手に受信料支払いを求めて提訴。1、2審は制度を合憲と認め、約7年分の受信料に当たる約20万円の支払いを命じた。【伊藤直孝】
「公共放送」見解も判断
最高裁は判決で受信料制度について法的判断を出すとともに、NHKの役割や公共放送の意義についても何らかの見解を示すとみられる。憲法適合性の判断に当たり、制度の合理性や必要性を具体的に検討しなければならないからだ。NHKの役割については、NHKの主張と、国が4月に提出した意見書の間にも微妙なズレが見られ、最高裁の判断が注目される。
放送法15条はNHKの目的を「日本全国で受信できる豊かで良い放送番組を放送する」とする。NHKは弁論で、具体的な番組名として身元不明遺体が全国で3万人超に上ると紹介したNHKスペシャル「無縁社会」(2010年1月放送)を例示。「長期取材で問題を提起して議論を生み出し、視聴しなかった人も放送の恩恵を享受できている」と述べ、公共放送の役割を果たしているとアピールした。
一方、国(法務省)は、制度を合憲とする根拠として意見書で「NHKは災害・有事に的確な情報を提供するインフラで、受益者である国民が受信料を負担するのは合理的」と説明。だが、NHK側の弁論は、災害・有事対応についてはほとんど触れなかった。
放送法に詳しい山田健太専修大教授(言論法)は「国の意見は行政情報を伝達するという狭い意味での公共放送の役割に過ぎない」と指摘。「受信料制度は罰則がなくあいまいな制度だが、仮に司法判断が支払いを強制する方向を強調しすぎるとNHKと公権力との関係が近くなり、表現の自由が制約を受ける恐れがある。独立性、多様性を保持した真の公共放送とは何なのか、司法の指摘を注視したい」と話す。【伊藤直孝】
https://mainichi.jp/articles/20171026/k00/00m/040/060000c
NHK側は「契約申込書が設置者に到達した時点で成立する」と主張してきたが、1、2審はこれを否定。「NHKを観ない」という選択肢がある以上、契約は双方の同意がなければ成立はしない。観る人だけに、受信料支払い義務が生じるだけである。NHKを観ない人に、なぜテレビを設置しただけで受信料支払い義務があるのか、まったく根拠のない話だ。つまり放送法64条の、テレビなどの放送受信設備の設置者は「NHKと受信契約をしなければならない」との規定は、NHK放送受信料徴収の為、便宜上制定されたものであり、そこにはNHKを受信するか、しないかの視聴者の意思を無視した背景があり、到底納得できない。すなわち、本契約は双務契約であり、金を貸してもいないのに請求できるはずもないのと同様、受信せずにサービスの提供を受けてもいない者に金は請求できないのである。NHKを受信してもいないのに、受信料支払い義務があるはずもないのだ。